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琉球宮古語池間方言のアクセント体系は三型であって二型ではない

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音声研究  第16巻第1 号 2012 (平成24) 年4 月 134-148頁

特集論文

琉球宮古語池間方言のア ク セ ン ト 体系は 三型であ って二型ではない

五十嵐陽介

*

・ 田窪行則

* *

・ 林  由華

* *

・ ぺラ ール ト マ

* * *

・ 久保智之

* * * *

Journal of the Phonetic Society of Japan, Vol. 16 No. 1 April 2012, pp. 134- 148

The I kem a Dialect of M iyako Ryukyuan Has a Three-, not Two-, Patter n Accent System Yosuke IGARAsHI* , Yukinori TAKUBo* * , Yuka HAYAsHI* * ,

Thomas PELLARD* * * and Tomoyuki KUBo* * * *

SUM M ARY: In this paper we test the hypothesis that Ikema, a dialect of M iyako Ryukyuan, has a three- pattern accent system, where three accent classes, Types A, B, and C, are lexically distinguished, contra previous studies which have claimed that it has a two-pattern accent system. The results of our analysis con- firm the existence of three distinct accent classes. The three-way distinction can only be observed in quite restricted conditions, including when nouns followed by one or more bimoraic particles precede a predicate.

The results also reveal that Type A words are few in number, indicating that Type A words are in the process of merging with Type B.

キーワ ー ド: 琉球諸語, 宮古語, 池間方言, 三型 アク セ ン ト 体系, 音響分析

は じ めに

本稿の目的は, こ れま で二型であ る と 記述 さ れ て き た琉球宮古語池間方言 (以下 「 池間方言」) のア ク セ ン ト 体系 は三型であ る こ と を示 す こ と に あ る。

琉球諸語は日本語 と の系 統関係が証明 さ れてい る唯一の言語群であ り  (服部1979) , 相互理解可 能性 を欠い た5 つの下位言語から 構成 さ れる。 す な わち, 奄美語, 沖縄語 (以上, 北琉球 グルー プ) およ び宮古語, 八重山語, 与那国語 (以上, 南琉 球グループ) である (Pe11ard 2009b, 2011, Shimoji

2010)。 本論が分析対象 と す る池間方言は, 南琉

球 グルー プに属す る宮古語 の方言 の ひ と つ で あ る。 こ の方言は, 沖縄県宮古島市の3 地域, すな わち池間島, お よ びその分村 であ る伊良部島佐良

浜集落 と 宮古島西原集落で話 さ れてお り, 流暢 な 母語話者の数は約2000人と 推定 さ れる (Hayashi

2010)。 本論の報告はすべて西原集落の話者から

得 ら れた デー タ に基づ い てい る。

琉球諸語の名詞 ア ク セ ン ト 体系 は, 語の長 さ が 增え る につ れ対 立数が増え る  「多 型 ア ク セ ン ト 」 が北琉球 グルー プに少数認め ら れる と はい え,

-

般的には語の長 さ が増え て も対立数が増加 し ない

「N型 ア ク セ ン ト 」 (上野1984a) で あ る。 後者の 場合, 種々の改新 に よ っ て対立数 を増や し た少数 の事例 を除け ば, 対 立数は最大 で3 (三型 ア ク セ

ン ト) である (上村1997)。 三型体系 を有する方

言 は北琉 球 グル ー プに 偏在 し て お り, 南琉 球 グ ルー プで三型体系 を有す るのは与那国語 (平山 ・ 

中本1964, 上野2010) と八重山語西表祖納方言(平

山ほか1967) ') のみで, 宮古語 で三型体系 を有す

*広島大学 (Hiroshima University)

* * 京都大学 (Kyoto University)

* * * CRLA 0, EHESS, CNRS, INALC0 (束ア ジア言語研究所 ・ 社会科学高等学院 ・ フ ラ ンス国立科学研究所 ・ フ ラ ン ス国立束洋言語文化学院)

**** 九州大学 (Kyushu University)

-

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-

(2)

る方言は存在 し ない と い う のがこ れま での通説で あっ た (平山ほか1967, 平山1983)。

宮古語の諸方言のア ク セ ン ト 体系 は, 弁別的 な ア ク セ ン ト を持 た ないい わゆる一型体系 (平良方 言, 伊良部仲地方言 な ど) か, 対立数がふたつの

二型体系 (与那覇方言, 上地方言な ど) のいずれ

かで あ る こ と が, 平山輝男 ら に よ っ て報告 さ れて

い る (平山ほか1967, 平山1983)。 平山輝男 らは

ま た, 本論が分析対象 と す る池間方言も二型体系 を有す る と し, さ ら に 「若い世代」 では形容詞 を 中心 に ア ク セ ン ト 型 の区 別 が不 明瞭 に な る 現象 (い わゆる 「 曖昧 ア ク セ ン ト 化」) が見 ら れる こ と を指摘 し てい る (平山ほか1967, 平山1983)。 ま た松森 (1998, 2011) や崎村 (2006) な ど比較的 最近の研究で も同様に, 池間方言は二型 ア ク セ ン

ト 体系 を持つ と 記述 さ れてい る。

一方 われわれは以前の研究 (Hayashi et al 2008) で, 1940年代後半生ま れの池間方言話者に も 明 瞭な ア ク セ ン ト 体系 が保持 さ れてい る事実 を報告 し, 「曖昧 ア ク セ ン ト 化」 が生 じ てい る と す る平山 ら の記述は, 少 な く と も 西原集落の変種 には当 て はま ら ない こ と を示 し た。 し か し なが ら, こ の方 言の ア ク セ ン ト 体系 は二型で あ る と す る点 におい て, われわれは他の研 究者 と 見解 を共有 し てい た。

こ のよ う な先行研究の記述に従え ば, 宮古語諸 方言の共通の祖語であ る宮古祖語のアク セ ン ト 体 系 は三型であ っ た と 想定す る よ り, 二型であ っ た と 想 定す る ほ う が適切 で あ る よ う に一 見思 われ る。 も し後者の想定が正 しけ れば, 現在の宮古語 諸方言には, 琉球祖語に存在し た対立を保持する 形 での三型体系は存在 し ない こ と にな る。  し か し ながら こ の想定は正 し く ない。 宮古祖語は3 種類

(以上) の ア ク セ ン ト 型の区別 を持 つてい た こ と

を示 す証拠が少 な く と も ふたつあ る。

ひと つめの証拠は, 宮古語多良間方言のア ク セ ン ト 体系 に関す る松森晶子によ る近年の報告に見 つけ る こ と がで き る。  こ の方言は二型体系 を持つ と 従来みな さ れてき たが (平山ほか1967) , 琉球諸 語に共通の祖語 (琉球祖語) に想定 さ れる アク セ ン ト 型の区別 を保持す る形の三型体系 を持つこ と

が明 ら かに さ れた (松森2010)。 多良間方言は宮 古島の諸方言よ り も む し ろ八重山の諸方言によ り 近い関係 を持つ と す る見解が出 さ れる こ と があ る

が (かり ま た2000) , 共通の改新に基づ く 分岐学

的 な方法 (cladistics) を用い る研究者は, 多 良間 方言が宮古祖語から分岐し た方言であるこ と を示 す独立の証拠 を提出 し てい る (ロ ーレ ンズ2003,

Pe11ard 2009)。 後者の立場に立てば, 多良間方言

が三型体系 を有す る事実は, 宮古祖語のア ク セ ン ト 体系が3 種類 (以上) のア ク セ ン ト 型の区別 を 持 つてい たこ と を想定 し なけ れば説明で き ない。

も う ひと つの証拠は, 松森晶子が近年指摘 し て い る よ う に, 宮古語諸方言におけ る ア ク セ ン ト 型 の合流の方言差 に見つけ ら れる。 松森晶子は, 服

部四郎 (1958) によ る提案 を琉球語諸方言のアク

セ ン ト の比較研究に基づい て発展 させ, 琉球祖語 には1 モ ーラ語 に少な く と も2種類, 2 モ ーラ 語・ 

3 モ ー ラ 語 に少 な く と も3 種類 の ア ク セ ン ト 型の 区別 が あ っ た と 仮定 し, そ れぞ れの ア ク セ ン ト 型 で区別 さ れる語類 をA系列, B系列, C系列 と 呼ぶこ と を提唱 し た (松森2000a, b)。 そ れぞれ の語類に所属す る語の総体は系列別語彙と 呼ばれ るが, 松森晶子によ る と, 二型体系 を持つ宮古語 諸方言には, 系列別語彙のA系列 とB系列 を合 流 させてい る(AB/C) 方言(たと えば与那覇方言) と, B系 列 とC系列 を合 流 さ せ て い る (A/BC) 方言 (た と え ば上 地方言) が存 在 す る (松森

2011)。こ の事実は, 両方言が分岐する以前の段階,

すなわち宮古祖語に, すべての系列の区別が保持 さ れてい る体系 (A/B/C) を想定 し なけ れば説明 で き ない。

以上のよ う に, 宮古語諸方言のア ク セ ン ト 体系 をめ ぐ る近年の研究は, 宮古祖語には3 種類あ る いはそ れ以上の ア ク セ ン ト の対 立があ っ た こ と 強 く 示唆 し てい る。 こ のこ と を考慮す る と, 現在の 宮古語諸方言の中に三型 ア ク セ ン ト 体系 を保持す る方言が存在す る可能性 をいま一度探求 し てみる こ と は, 決 し て無益 ではない と い う こ と がで き る。 

そこ で われわれは新 た に, こ の方言が実は三型体 系 を保持 し てい る と す る仮説 を立て, こ れを検証

(3)

特集  「N型アク セ ント 研究の現在」

す る こ と を目的 と し た組織的な調査に着手 し た。 

その結果, 特定の環境におい て3 種類の区別が実 現 さ れる こ と を発見 し た。

以降, 第2 節では, 池間方言の名詞 ア ク セ ン ト

体系 を, わ れわ れの こ れま で の調査 で 明 ら か に な っ た範囲内 で記述 し, こ の方言が三型体系 を有 す るこ と を示す。 第3 節では, 池間方言の名詞ア ク セ ン ト 体系 が三型であ る と す る主張 を, 音響音 声学的手法に基づい て検証す る。 第4 節で議論 を 要約 し 結論 を述べ る。 

2 池間方言のア ク セ ン ト 体系

以降本論では, 池間方言の3 種類のア ク セ ン ト 型 を そ れ ぞ れA型, B型, C型 と 呼 ぶが, こ の 名称は系列別語彙と の対応 を念頭に置い て決定 し てい る。 なお, 本論の分析対象は3 モ ーラ以下の 名詞 に限定す る2)。 池間方言 には1 モ ー ラ の語彙 語 は存在 し な い の で3), 分析対象 は2 モ ー ラ あ る

いは3 モ ーラ の名詞 と な る。

第1 節 でふれた よ う に, 池間方言は二型 ア ク セ ン ト 体系 を有 す る と い う のが こ れま で の定説 で あ っ た (平山ほか1967)。 平山輝男 ら によ れば池 間方言のアク セ ン ト 型の表層の実現形は表1 の通 り で あ る4)。 以後慣習 に し たが っ て, ピ ッ チ の上 がり 日 を[ で, 下がり 目 を] で表す。 平山輝男 ら

は2 モ ーラ 名詞の一方の型 を 「 尾高型」, 他方の

型 を  「低平型」  と 呼 んでい るが, その実現形 と 所 属語彙か ら判断 し て, 前者は本稿のA型・B型に, 後者は本稿のC型に相当す る。 同様に, 3 モ ーラ 名詞の 「中高型」 は本稿のA型・B型に, 「低平型」

は本稿のC型に相当する。

一方, われわれの調査では, 名詞 を単独で発音

し た場合 の実現形は (1) の通 り と な る。2 モ ー ラ語 に関す る限り, 平山輝男 ら の記述 と われわれ の記述は全 く 一致 し ない。3 モ ーラ 語に関 し ては, A型 ・ B型の記述に一致が見 ら れるが, C型の記 述に不一致が見 ら れる。  こ の不一致が世代差や地 域差 に よ る も の なのか, その他の要因 に よ る も の なのかは不明で あ る。 

(1 ) 単独発話の実現形

a 2モーラ A型: [bul tu 「夫」

B型: [mal yu 「猫」

C型: na[bl ~ [nabi 「鍋」

b 3 モ ーラ A型: a[gal l ~ [agal i 「束」

B型: mu[nul l ~ [munul i 「言葉」

C型: u[mui ~ [umui 「思い」

2モ ー ラ 語, 3 モ ー ラ 語 と も に, A型 とB型は 単独発話におい て中和するよ う で ある。 単独発話 に関す る限り, A型・B型は次末モ ーラ と 最終モ ー ラ の間に下が り 日 が観察 さ れるパ タ ン, C型はそ のよ う な下降がないパ タ ンと し て一般化で き る。

2 モ ーラA型 ・ B型の単独発話 を除い て, すべ

ての型の第1 モ ー ラ は, 低 ピ ッ チ で 実現 さ れる場 合 と 比較的高い ピ ッ チ で実現 さ れる場合 があ る。 

後述す る よ う に, 2 モ ーラA型 ・ B型の第1 モ ー ラ も, そ れに助詞や他の語が後続す る環境で は低 ピ ッ チで実現 し う る(A型bu[tu]-nu ~ [butu]-nu「夫 の」: B型ma[yu]-nu ~ [mayu]-nu)。  こ の ゆ れが 完全 な自由変異で あ る のか, そ れと も 何 ら かの要 因 に よ っ て規定 さ れてい る のか を 調査す る のは今 後の課題であ る。 以降, 第1 モ ー ラ が低いパ タ ン

を基本形 と みな し, ゆれの表示 を省略す る。

(2) は名詞 に1 モ ー ラ 助詞nu 「 が/ の」 (主 表1 平山輝男ら (平山ほか1967, 平山1983) によ る各ア ク セ ン ト型の実現形の記述

単独発話  助詞nudu「が」 (主格+焦点標識) の付いた発話  2モ ーラ 尾高型 (A型 ・ B型)

低平型 (C型)

ha[na 「花」 

usi

「臼」 

ha[na]-nudu sa[kl] ui. 「花が咲い てい る。」 

[usi-nudu] ari ui. 「臼があ る。」 

3モ ーラ 中高型 (A型 ・ B型) 低平型 (C型)

a[ful zi 「欠伸」 

garasa 「鳥」 

a[ftlzi]-nudu idi yui. 「欠伸が出る。」 

[garasa-nudu] u[ri] ui. 「鳥がい る。」 

-

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-

(4)

格/属格) が後続し発話が終わる環境におけ る実 現形 で あ る。 (他の1 モ ー ラ 助詞で も 同様のパ タ ンが観察 さ れる こ と を, 少 な く と もya「は」 (主 題標識) と u「 を」(対格) につい て確認 し てい る。)

(2) 名詞+ 1 モ ーラ助詞nu+発話末におけ る実

現形

a 2 モ ーラ A型: bu[tu]-nu「夫の」

B型: ma[yu]-nu「描の」

C型: na[bi-nu 「鍋の」

b 3 モ ーラ A型: a[gal i-nu「束の」

B型: mu[nul i-nu「言葉の」

C型: u[mul i-nu「 思いの」

2モ ーラ語 に関す る限り, A型 ・ B型は名詞の 直後 に下が り 目が観察 さ れるパ タ ン, C型は その よ う な下降がないパ タ ンと し て一般化で き る。 こ の環境 で もA型 と B型 は中和 す る よ う で あ る。 

一方3 モ ーラ 語は, こ の環境ではすべ ての型が中

和 す る よ う で あ る。 いず れの型 も, 第2 モ ー ラ か

ら 第3 モ ーラ の間に下が り 日 を持つパ タ ンと し て

実現 さ れる。

(3) は名詞 に2 モ ー ラ 助詞mai 「 も」 (並列) が後続 し 発話が終 わる環境 におけ る実現形 で あ

る。 (他の2 モ ー ラ 助詞 で も 同様のパ タ ンが観察

さ れ る こ と を, 少 な く と も kara「 か ら」 (奪格) と nudu「 が」 (主格+ 焦点標識) につい て確 認 し てい る5)。)

(3) 名詞+ 2 モ ーラ助詞mai + 発話末におけ る実 現形

a 2 モ ーラ A型: bu[tu]-mai 「夫も」

B型: ma[yu]-mai 「描も」

C型: na[bl-mai l 「 鍋も」

b 3 モ ーラ A型: a[gai]-mai 「束も」

B型: mu[nui]-mai 「言葉 も」

C型: u[mui-mal i 「思い も」

2モ ー ラ語, 3 モ ー ラ語 と も にA型 と B型は こ の環境 におい て も 中和す る よ う であ る。 A型 ・ B

型は助詞maiの前 に下が り 目の観察 さ れる型, C 型はそのよ う な下が り 目の観察 さ れない型 と し て

-

般 化 で き る (Hayashi et al 2008)。 平 山 ほ か (1967) には2 モ ーラ助詞nudu「が」 (主格+ 焦 点標識) が後続す る場合の実現形が記述 さ れてい

る が (表1) , われわれの記述 と 平山輝男 ら の記

述はこ の環境ではほぼ一致す る6)。

こ れま で検討 し てき た環境では, 少な く と も一  部の型が中和 し て し ま う ため, 観察で き る ア ク セ

ン ト 型の区別は最大で2 種類であっ た。 一方 (4) は, 名詞 に2 モ ー ラ 助 詞maiが後 続 し, さ ら に

述語nyaan 「 ない」  が後続 し 発話が終 わる環境に

おけ る実現形であ るが, こ の環境では3 種類の区 別が実現 さ れる7)。 

(4) 名詞+ 2 モ ーラ 助詞mai + 述語nyaan + 発話 末におけ る実現形

a. 2 モ ー ラ

b 3モ ー ラ

A型: bu[tu]-mai] nyaan.

「夫 も ない。」

B型: ma[yu]-mai [nyaan.

「描 も ない。」

C型: na[bl-mail nyaan.

「 鍋 も ない。」

A型: a[gall -mail nyaan.

「束 も ない。」

B型: mu[nui]-mai [nyaan

「言葉 も ない。」

C型: u[mui-mai] nyaan.

「思い も ない。」

こ の環境では2 モ ーラ語, 3 モ ーラ語 と も に同 じ実現形 を持つ。 A型 ・ B型は2 モ ーラ助詞mai の前 に下 が り 日 の観察 さ れ る点, お よ びC型 は そのよ う な下が り 目の観察 さ れない点は, (3) の 環境におけ る実現形 と同一である。  こ れま でいか な る環境 で も 中和 し てい たA型 とB型の間の差 異は, 2 モ ー ラ 助詞maiと 述語nyaanの間に表れ て い る。 具体 的 に は, A型 で はmaiと nyaanの 間 に下降が観察 さ れる8) のに対 し て, Bで はこ の 位 置 に上昇 が 観察 さ れ る。  一方C型 で は, -mai

(5)

特集 「N型アク セ ン ト 研究の現在」

と nyaanの間に下降が認め ら れる。

(4) に示 し たよ う に, 名詞に2 モ ーラ助詞が後 続 し, さ ら に述語が後続 し 発話が終 わる環境では

3 種類の区別が観察 さ れる。 一方, (3) に示 し た

よ う に, 述語が後続せず発話が終 わる場合は, た と え名詞に2 モ ー ラ助詞が後続 し て も, A型 とB 型の区別は中和す る よ う であ る。 ま た, 述語で発 話が終 わる場合 で も, 名詞に2 モ ーラ 助詞が後続 し な い場合 は ( た と え ばsaki-nu nyaan. 「 酒が な い。」) , A型とB型の区別は中和するよ う である。 

以上のこ と か ら, 名詞に2 モ ーラ助詞が後続す る と い う 条件 と, 述語で発話が終わる と い う 条件 を 同時に満 た し た環境が, 3 種類の区別 を実現 さ せ る環境のひと つであ る と 言 う こ と がで き る。

こ こ ま での議論か ら, C型 と その他の型の違い を反映す る ピ ッ チ 運動 (C型= 平坦, A型 ・ B型

= 下降) は名詞 と 後続す る2 モ ーラ助詞の間で生

じ る と 一般化 し, A型 とB型の違い を反映す る ピ ッ チ運動 (A型= 下降, B型= 上昇) は名詞の

直後の2 モ ーラ助詞 と 述語の間に現 れる と 一般化

す る こ と がで き そ う であ る。  し か し なが ら, 前者 は正 し いが後者は正 し く ない。 なぜ な ら, 名詞に 2 モ ーラ助詞がふたつ後続 し 述語で発話が終わる 環境では, 当該の ピ ッ チ運動は最初の2 モ ーラ助

詞 と2 番日の2 モ ーラ助詞の間に観察 さ れるか ら

であ る。 (5) は2 モ ーラ 助詞kara「 から」 (奪格) に も う ひ と つ の2 モ ー ラ 助 詞maiが後続 し, 述

語kaki 「書け」  で発話が終わる環境での実現形で

あ る 。 

(5) 2 モ ー ラ 助詞kara + 2 モ ー ラ 助 詞maiお よ

び述語kaki + 発話末におけ る実現形

a. 2 モ ーラ A型

B型

C型

b. 3 モ ーラ A型

bu[tu]-kara]-mai] ka[kl.

「夫から も書け。」

ma[yu]-kara-[mail ka[kl

「猫から も書け。」

na[bl-kara]-mail ka[kl.

「鍋から も書け。」

a[gall -kara] -mail ka[kl.

「東から も書け。」

B型: mu[nui]-kara-[mail ka[kl

「言葉から も書け。」

C型: u[mui-kara]-mai] ka[kl.

「 思いから も書け。」

A型 と B型 の違 い を 反映す る ピ ッ チ 運動 (A 型=下降, B型= 上昇) はkaraと maiの間に生

じ てい る。 し たが っ て, 当 該の ピ ッ チ運動は2 モ ー

ラ 助詞 (2 番目の語) と そ れに後続す る2 モ ー ラ

以上の語 (3 番日の語) と の間に生 じ る と す るの

が, 妥当 な一般化 と い う こ と に な る9)。

なお, 名詞に2 モ ー ラ 助詞がふたつ後続す る場

合 で あ っ て も, 3 種類 の区別 が実現 さ れる た めに は述語で発話が終わる と い う 条件が必須であ る点 は動かない。 「名詞+ 2 モ ーラ助詞+ 2 モ ーラ助詞

+ 発話末」  と い う 環境では, A型 とB型の区別

は明瞭に観察で き ない。

以上の議論 か ら, 3 種類 の ア ク セ ン ト 型の区別 は, いず れにせ よ み っ つの語  (そ れぞれ2 モ ー ラ 以上) か ら な る語連鎖内 で実現 さ れる こ と がわか

る。3 語か ら な る語連鎖と い う 大 き な言語単位 を

(少 な く と も 表面的には) 領域 と す る池間方言の

ア ク セ ン ト は, 同 じ く 大 き な言語単位 を領域 と す る音調現象で あ るイ ン ト ネ ーシ ョ ン (文音調) を 想起 さ せ る かも し れない。 し か し なが ら, 少な く と も われわれが適用 す る枠 組 みで は, ア ク セ ン ト と イ ン ト ネ ー シ ョ ンを峻別す る特徴は, 特定の音 調が実現 さ れる領域 と な る単位の違い (ア ク セ ン ト は語, イ ン ト ネ ー シ ョ ンは句 や文) に あ る ので は な い。  両者の山唆別は, 音調が個 々の語彙項目 (lexical item) に指定 さ れて い る か否 かに基づ い て な さ れる。  し たが っ て, 語彙項目 ご と に指定 さ れた音調上の特徴で あ れば, た と え そ れが実現 さ れる領域が句 や文 な どの語 を超 え た単位で あ っ て も, ア ク セ ン ト と みな さ れ る 。

問題の音調現象が語彙項目 ご と に指定 さ れた も の で あ る こ と を確認す る た め に, ア ク セ ン ト のみ で対 立す る ミ ニ マ ルペ ア を (6) に示 す。 ま た そ れら に対応す る音声波形 と 基本周波数 (FO) 曲

線 を図1 に示 す。 音調特徴 を除い て他のすべての

-

138

-

(6)

1 1 5 T ime (Sec)

(a) A型ii 「西」

0 5 1

T ime (Sec)

B型ii「錐」

1 1 5

Time (Sec)

(b) B型in「犬」

0 5 1

Time (Sec)

c型in「海」

0.5 1 1 5

Time (Sec)

(c) A型yui 「労働協力」

0 5 1

Time (Sec)

C型yui 「夕食」

図1 ア ク セ ン ト 型で対立す るミ ニマルペアの音声波形 (上図) とFO曲線 (下図) 音声特徴が同一であ る発話のペ アにおい て, 各発

話 で同 じ位置 を占め る単一の語の知的意味 (intel- lectual meaning) の みが異 な っ て い れば, 観察 さ れる音調特徴の発話間での差異は, 当該の語に指 定 さ れた特徴 す な わ ち ア ク セ ン ト と みな さ ざ る を え ない。 

(6) ア ク セ ン ト 型のみで対立す る ミ ニ マ ルペ ア a. A型対B型

A型: i[1]-mail nyaan. 「西も ない。」

B型: i[i]-mai [nyaan. 「錐 も ない。」

b. B型対C型

B型: i[n]-mai [nyaan. 「犬 も ない。」

C型: i[n-mail nyaan. 「 海も ない。」

c. A型対C型

A型: yu[1]-mail nyaan「労働協力 も ない。」

C型: yu[i-mail nyaan. 「夕食 も ない。」

以上 を要約す る と  (7) のよ う にな る。 

(7) 池間方言のアク セ ン ト 体系 a. 三型 ア ク セ ン ト 体系 で あ る。

b. 3 種類の型の区別が現 れる環境は極め て限定 さ れてお り, 名詞に2 モ ー ラ助詞が後続す る と い う 条件 と, 述語で発話が終わる と い う 条 件 を同時に満たす環境が, そのよ う な環境の ひ と つで あ る。

c. 3 種類 の型 の区 別 は, み っ つ の語 (そ れぞ れ

2 モ ー ラ 以上) か ら な る語連鎖内 で実現 さ れ

る。

・ 「 名詞+ 2 モ ーラ助詞+ 述語+ 発話末」  と い う 環境では, 名詞か ら 述語ま で の範囲で 実現 さ れる。

・ 「名詞+ 2 モ ーラ助詞+ 2 モ ーラ助詞+ 述語 +発話末」  と い う 環境では, 名詞から2 番

(7)

特集 「N型アク セ ン ト 研究の現在」

目の2モ ーラ助詞ま での範囲で実現 さ れる。

d. 名詞に2 モ ーラ 助詞が後続 し, 述語 で発話が

終 わる と い う 条件下 での, 3 種類の型の表層 の実現形は以下の通 り であ る。

・ A型: 名詞 と 後続す る2 モ ー ラ助詞の間 に 下が り 目があ り, 2 モ ー ラ助詞 と そ れに後 続す る語の間 に下が り 日があ る。

・ B型: 名詞 と 後続す る2 モ ーラ 助詞の間 に 下が り 目があ り, 2 モ ー ラ 助詞 と そ れに後 続す る語の間に上が り 日があ る。

・ C型名詞 と 後続す る2 モ ーラ 助詞が同水準 で あ り, 2 モ ー ラ 助詞 と そ れに後 続す る語 の間に下が り 日 があ る。 

池間方言の ア ク セ ン ト の実現規則は不明な と こ ろが多 いが, こ の方言が ア ク セ ン ト の実現 に関 し て類型論的に見て珍 し い特徴 を持つこ と は間違い ない だ ろ う 。

「 名詞+ 2 モ ーラ 助詞+ 述語+ 発話末」  と い う 環境は, 3 種類のア ク セ ン ト 型の区別が完全に実 現 さ れる環境のひと つではあ るが, 唯一の環境で は ない と 思 われる。  そのほかに どの よ う な環境が あ る の か を 明 ら か に す る のは今 後 の課題 で あ る が, 3 種類の区別がすべ て現 れる環境が極 めて限 定 さ れてい る こ と は間違い ない。 先行研究におい て池間方言が二型 ア ク セ ン ト 体系 を持つ と 誤 っ て 記述 さ れてき た理由のひと つは, 型の区別が実現 さ れる環境が限定 さ れてい る事実に あ る と 考え ら れ る 。

以上, 池間方言の名詞 ア ク セ ン ト 体系 を記述 し, こ の方言が三型体系 を持つこ と を示 し た。 次節で は, 池間方言が三型体系 であ る と す る主張 を, 音 響音声学的手法に基づい て検証す る。 

3. 音響分析'°

)

3.1 手法 3.1.1 話者

話者は, (8) に示す池間方言 (西原変種) の母 語話者男性3 名であ る。 

(8) 話者 a. M T b. MK c_

MH

1943 年生ま れ 1935 年生ま れ 1947 年生ま れ

男性 男性 男性

3.1 .2 音声資料

松森 (2010) におけ る宮古語多良間方言の語彙

に同源語(cognate) の見つかる宮古語池間方言(西

原変種) の語 を テ ス ト 語の候補 と し た。 テ ス ト 語 の候補は以下のキ ャ リ ア文 に挿入 し て話者に提示

し た。 

(9) キ ャ リ ア文 (Xはテス ト 語 を表す。) a. X-mai nyaan. 「Xも ない。」

(話者M T, 話者M K) b. X-mai arii duu.11) 「Xもある。」  (話者MH) 発話 さ れた テ ス ト 語の候補か ら1 ) 2 モ ーラ あ る いは3 モ ーラ か ら な る語, 2) ア ク セ ン ト 型に話者 間変異が見 ら れなか っ た語 を 選択 し た。その結果, 表2 に示す121 語がテス ト 語 と し て選択 さ れた。 

3.1.3 録音

録音は2011 年1 月8 日~ 10日, 沖縄県宮古島 市西原集落にあ る話者の自宅あ るいは公民館で, AKG社製 コ ンデ ンサマイ ク ロ フ オ ンC420, お よ びM arantz社製 レ コ ー ダPM D660を用い て行 っ た。

テス ト 文は, 池間方言での発音 を平仮名で表記 し た も の と, 語のおお よ その意味 を日本語で 表 し た も の を併記 し た リ ス ト (例: か じ や 「匂 い」) を用い て, 話者に提示 し た。 話者はすべてのテ ス ト 文 を1 回ずつ読んだ。 第1 筆者と 第2 筆者が発 話 を モ ニ タ ー し, 話者が試験文 を誤 っ て読 んだ場 合はその場 で やり 直 し て も ら っ た。

録音 さ れた音声は, 適切 な低域通過 フ ィ ル タ ー を かけ た後, 量子化 ビ ッ ト 数 l 6 bit, サ ン プ リ ン グ周波数44.1 kHzで メ モ リ ーカ ー ドに保存 し た。 

3.1.4 分析手順

主た る分析方法 と し て以下の方法 を採用 し た。 

まず, 聴覚印象 に基づい てすべ てのテ ス ト 語のア ク セ ン ト 型 を分類 す る。  次に そ れぞ れの ア ク セ ン

ー140

-

(8)

ト 型に属す る テ ス ト 語のFOを計測す る。 最後 に, そ れぞ れの ア ク セ ン ト 型 ご と にFOの平均値 が異 な るか否か を調べ る ために, 差の検定 (分散分析) を行い, 先 に行 っ た ア ク セ ン ト 型の分類の妥当性 を 検討 す る。 FO値 の差 の検 定 は, 3 語 そ れぞ れ におけ るFO水準 (F0 leve1) の観点 と, 語 と 語の

間のFO運動 (FO movement) の観点か ら行 っ た。

採用 し た も う ひと つの分析方法は ク ラ ス タ 一分 析 で あ る。  ク ラ ス タ 一分析は, 外的基準 を与え ず に デー タ を自動的 に分析す る手法 で あ る ため, ア ク セ ン ト の対立数がい く つあ るのか を検討す る日 的のためには, あ ら か じ めみ っ つ に分類 し た カ テ ゴリ ー間の差の検定 を行 う 上記の手法よ り, 適当 な手法であ る と 言え る。  こ の分析は語と 語の間の FO運動の観点 のみか ら行 っ た。

3.1.5 計測

計 測 は 音 声 分 析 ソ フ ト Praat (Boersma and Weenink 2011) を用い て行 っ た。 ま ず, 音声波形 と 広帯域スペ ク ト ロ グラ ムを同時に表示 し た画面 を見なが ら, 語境界 を手作業 で同定 し た。  こ れに よ り テス ト 語区間, 助詞区間, 述語区間を同定し た。 次に音声信号か らTo Pitch_ コ マ ン ド を用い てFOを10 msec毎 にHzで 抽 出 し た。 そ の 後 Praatのス ク リ プ ト 機能 を用 い て, FO曲線上 に後 述する3 点 (Pt1, Pt2, Pt3) を同定し, それらの点 におけ るFO値 を自動的 に計測 し た。 Pt1 は テ ス ト 語区 間内 で最 も 高いFO値 の時点, Pt2 は助 詞

区間の80% の時点, Pt3 は述語区間の50% の時

点 と 定義 し た。 

3.2 結果

3.2.1 定性分析によ るア ク セ ン ト型の分類

聴覚印象 に基づい て テ ス ト 語の ア ク セ ン ト 型の 分類 を行 っ た結果は表2 に示 さ れてい る。 多良間 方言 でB型 で あ る同 源語 のほ と ん どが池間方言 で もB型 で あ り, 多 良間方言 でC型 で あ る同 源 語 のほ と ん どが池間方言 で もC型 で あ る と い う 規則的 な対応があ る こ と がわかる。 一方, 多良間 方 言 でA型 で あ る 同 源語 に つ い て は, そ れ ら の ほ と ん どが池間方 言 で はB型 に対 応す る が, B

型 に対応 し ない語の半数以上がA型 に対応 す る。 

ま た池間方言 に おけ るA型 の語数は極 め て少 な い (121 語中7 語)。

3.2.2 FO水準に基づ く 分析

図2 はPt1, Pt2, Pt3 のFO値の平均値であ る。

ア ク セ ン ト 型 (A, B, C) を独立変数, Pt1, Pt2, Pt3 のFO値 を そ れぞ れ従属変数 と し て, Pi11aiの

ト レ ース を用い た多 変量分散分析 (M ANOV:A) を 話者 ご と に行 っ た と こ ろ, す べ て の話者 に つ い て ア ク セ ン ト 型 の有 意 な 主効 果 が観察 さ れた [話者M T, F(6, 234) = 81.70, P < 0.001 ; 話者MK, F(6, 234) = 90.02, P < 0.001 ; 話者MH, F(6, 234) = 46.45, P < 0.001]。 Bonferroni法によ る多重比較 を 行い, 個々の計測点 におい て ア ク セ ン ト 型の効果 が有意であ るか否か を調べた(P値 を図2 に示 す)。 

Pt2 に おけ る差 は, すべ て の話者 に つ い て, A型

と B型の間, B型 とC型の間, C型 と A型 の間 で有意であっ た (C > A > B; こ れ以降 「X > Y」 は,

「XがYよ り 有意に高い こ と」 を表す)。 Pt3 にお け る差 は, す べ て の話者 に つ い て, A型 とB型 の間, B型とC型の間で有意であ っ た (B > A, C)。 

Pt1 に つい ては個人差が見 ら れた。 話者M Tと 話

者M Kに つい て は, す べ て の型 の間 の差 が有 意 で あ っ たが (A > B > C) , 話者M Hについ てはA 型 とC型の間の差のみが有意であ っ た (A > C)。

FO水準 に基づ く 音響分析の結果, 3 種類のア ク セ ン ト 型 のFO曲線 は, 互い に有 意に異 な っ て い る こ と が示 さ れた。 差は助詞のFO水準 (C型 が最 も 高 く, A型がそ れに続き, B型が最 も 低い) , お よ び述語 のFO水準 (B型が その他の型 よ り 高 い) に一貫 し て観察 さ れた。  ま た名詞のFO水準 に つ い て もC型 が他 の型 よ り も 低 い 傾向 が観察 さ れた。

3.2.3 FO運動に基づ く 分析

図3 はPt1 とP2 の間のFO値の差 (Pt2-Pt1) を 横軸に, Pt2 とP3 の間のFO値の差 (Pt3-Pt2) を 縦軸 に と っ た散布図で あ る。 負 の値は, 隣 り 合 う

語の間でFOが下降す る こ と を示す。 こ のふたつ

の軸 に よ っ て, テ ス ト 語が3 種類 の グルー プに明 確に分離 さ れてい る こ と がわかる。 話者M HのB

(9)

特集 「N型アク セ ン ト 研究の現在」

表2 テス ト 語。 聴覚印象に基づいて分類 さ れた池間方言におけるア ク セン ト型 (池) と, 多良間方言 (松森2010) におけ る同源語のア ク セ ン ト 型 (多) が併記 さ れてい る。 

ア ク セ ン ト テ ス ト 語  意味  型 

池  多 

ア ク セ ン ト テス ト 語  意味  型 

池  多 

ア ク セ ン ト テス ト 語  意味  型 

池  多  A

A A A A A B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B C C C C A B B B B ど  た 

な  方 

子 

ま 

端 

ろ  , け 

供 

鞋 

い 

バ 

震 

桃 

菜 

尾 

日 

睡 

実 

う  み 

輩 

よ 

女 

弟 

が 

同 

コ 

き 

り 

・  中 

兄 

足 

ダ  ,

つ 

周 

子 

年 

座 

] 桶 

し  こ 

ど 

貝 

キ 

豆  布 

籠 

所 

履 

糖 

枚 

桶 

腐 

父 

京  尿 南  agal

hutu tibi nsi syaaka tuzi akaci akai asin ffa ffaci fudami in

ZZu

yudai yuci kaa kazya kyuusi kuusu kuba mai muc益  nai nnagu sanin saba suu sudi ttuci uru zyuu dusi nzi sabani

ura IaIsl azya acya bata cizi

実 

う  み 

輩 

よ 

女 

弟 

が 

同 

コ 

き 

り 

・  中 

兄 

足 

ダ  ,

つ 

周 

子 

年 

座  桶  2

3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 1 2 4 4 4 4 4 4 4 4 5 5 5 5 5 5 5 5 5 5 6 6 6 6 6 6 6 6 6 6 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 8 8 8

B B B B B B B B B B B B B C C C B B B B B C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C

83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121

-

142

-

し  こ 

ど 

貝 

キ 

豆  布 

籠 

所 

履 

糖 

枚 

桶 

腐 

父 

京  尿 南  83

84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121

kazici hnu kuu maai maasu madu magu makai minaka mihana naba nakazya hira sibai sikama cic益  saba sana sanazi syasi sata sauki siigu sina isagu tagu tamunu taya tida cyuuka taufu uyubi uya ukama umaci mmaga utaki waa zimami

C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C C

-

142

-

-

142

-

(10)

型のPt3-Pt2 が他の話者 よ り 小 さ めの値 を取 っ て い る ( こ れは助詞か ら述語にかけ ての上昇幅が小 さ い か, あ るいはわず かに下降 し てい る こ と を 意 味す る) が, こ れは話者M Hが他のふた り の話 者 と は異な る キ ャ リ ア文 を用い たこ と と 無関係で は ない と 思 われる。 

250

1(NH)0LL 

100

250

200

150

100

250

1(zH)

0L ﹂ 

100

Pt1 Pt2 Pt3

Point s

(a) 話者M T

Pt1 Pt2 Pt3

Points

(b) 話者MK

Pt1 Pt2 Pt3

Point s

(c) 話者MH

図2 Pt1, Pt2, Pt3 の平均FO値。(*P < 0.05, **P < 0.01,

★★ ★P < 0 001)

ア ク セ ン ト 型 (A, B, C) を独立変数, Pt2-Pt1 とPt3-Pt2 を従属変数 と し たM ANOVA (Pi11aiの ト レ ース) を話者 ご と に行 っ た と こ ろ, すべての

50

05

(NH) ad , ad (NH) ad , ad 

-100 -130

50

-50

-100

50

05

(zH) ad , ad 

-100

-80 -30

Pt2 - Pt1 (Hz) (a) 話者M T

20

-130 -80 -30

Pt2 - Pt1 (Hz) (b) 話者MK

20

-130 (c )  話pt1者 (H

z30) H  2 0

図3 Pt2-Pt1 を横軸にPt3-Pt2 を縦軸に と っ た散布図。 

(11)

特集 「N型アク セ ン ト 研究の現在」

話者につい て ア ク セ ン ト 型の有意な主効果が観察 さ れた [話者MT, Fl〔4, 236) = 116.43, P < 0.001 ; 話者MK, F(4, 236) = 104.51, P < 0.001 ; 話者MH, .F(4, 236) = 66.32, P < 0.001]。 Bonferroni法に よ る 多 重比較 を行 っ た と こ ろ, 話者M Kお よ び話者 M HのPt2-Pt1 につい ては, A型 とB型の間の差が 有 意で は な か っ たがC型 と その他の型は有 意 で あり (C > A, B) [Pく0.001] , 話者M TのPt2-Pt1 に つい て は, すべ て の型 の間 の差 が有 意 で あ っ た (C > A > B) [P < 0.001]。 一方Pt3-Pt2 は, すべて の話者につい てすべ ての型の間の差が有意で あ っ た (B > A > C) [P < 0.001]。

以上, 3 種類の ア ク セ ン ト 型のFO曲線は互い に有 意に 異 な っ てい る こ と が, FO運動 に基づ く 音響分析の結果に よ っ て も確認 さ れた。 名詞か ら 助詞にかけ てのFOは, A型 とB型では下降す る が, C型はほ と ん ど下降 し ない こ と が確 認 さ れた。 

一方, 助詞か ら 述語 にかけ て のFOは, B型で は 上昇, A型 とC型 で は下 降 で あ る が, 下 降 幅は A型 よ り C型の方が大 き い こ と が確認 さ れた。

3.2.4 ク ラ ス タ 一分析

最後 に, Pt2-Pt1 とPt3-Pt2 を用い て階層的 ク ラ ス タ 一分析 を話者 ご と に行 っ た。  テ ス ト 語の距離 の測定方法 と し て平方ユ ーク リ ッ ド距離 を用い, ク ラ ス タ ー 間の距離 を定義す る方法 と し てWard 法 を用 い た。その結果, すべ ての話者 につい て み っ つの ク ラ ス タ 一が形成 さ れた。  ま た各 ク ラ ス タ 一  の成員は, 話者M Hの2 語'2) を 除 い て, 聴覚 印 象 に よ っ て分類 し た ア ク セ ン ト 型の成員 と 完全 に 一 致 し た。 ク ラ ス タ 一 ・ デ ン ド ロ グ ラ ム (紙面 の 都合 によ り 省略) に よ る と, C型の語は他の型の 語か ら は るか遠 く に位置 し てい るのに対 し て, A 型 と B型 の間 の距 離 は非 常 に近 く に 位 置 す る。 

こ のこ と はA型 とB型が, 少 な く と も用い たふ たつの変数か ら見 る限り, 音響的に近い こ と を示 唆す る。

こ の結果は, 聴覚印象に基づい た ア ク セ ン ト 型 の分類 が妥当 な も の で あ っ た こ と を示 す と と も に, 池間方言に3 種類の ア ク セ ン ト 型が存在す る こ と を裏付け る も ので あ る。 

3.3 要約

聴覚印象に基づい て分類 し た3 種類のア ク セ ン ト 型 に そ れぞれ所属す る テ ス ト 語は, 音響的 に も 互い に有意に異な っ てい る こ と が, 分散分析の結 果 に よ っ て確認 さ れた。  ま た, あ ら か じ め分類 を 行 わずに音響特徴のみを与 え て テ ス ト 語 を分類 さ せ る ク ラ ス タ 一分析 の結果, 3 種類 の ク ラ ス タ 一  が得 ら れた上, 各 ク ラ ス タ 一 の成員が, 聴覚印象 に基づい て分類 し た ア ク セ ン ト 型の成員 と ほぼ完 全に一致 し た。 以上の結果から, 池間方言のア ク セ ン ト 体系 は三型で あ っ て二型ではない と い う こ と は, 動か し がたい事実で あ る と 断言す る こ と が で き る。

本節の分析によ り, 池間方言と多良間方言の間 には そ れぞれの ア ク セ ン ト 型 に所属す る語彙 に規 則的 な対応があ る こ と が示 さ れたが, 同時に池間 方言のA型の語彙数が極端 に少 ない こ と も 明 ら かに さ れた。 A型の語彙が極めて少 ない事実 も ま た, 池間方言の ア ク セ ン ト 体系 が二型で あ る と す る 誤 っ た記述の原因 の ひ と つ で あ る と 考 え ら れ る。 方言間の対応につい ては次節で も 触れる。 

4

結語

琉球宮古語池間方言は二型アク セ ン ト 体系 を持 つ と い う のが通説で あ っ たが, われわれの調査の 結果, こ の方言は三型体系 を有す る こ と が明 ら か に な っ た。 ま た, 3種類 の ア ク セ ン ト 型 (A型, B型, C型) の中 でA型 の語 彙数が極 め て少 な い こ と も 明 ら かに な っ た。 ア ク セ ン ト 型の区別 の 一部はあ ら ゆる環境で中和す る よ う であ り, 3 種 類 の型 の区 別 がすべ て 実現 さ れる 環境 の ひ と つ は, 「 名詞+ 2 モ ーラ助詞+述語+発話末」  と い う 環境で あ る こ と が分か っ た。 従来の研究におい て, 池間方言 の ア ク セ ン ト 体系 は二 型 で あ る と 誤 っ て記 述 さ れて き た原因 は, 第1 にA型 の語 彙数が極めて少ない こ と, 第2 に3 種類の型の区 別がすべ て実現 さ れる環境が著 し く 制限 さ れてい る こ と にあ る と 思われる。

A型の語彙数が極めて少 ない こ と を理由 と し て

-

144

-

(12)

池間方言の三型体系 を, A系列 と B系列 をい つ たん合流 させ二型体系 と な っ た後 (AB/C) , 類の 分裂に よ っ て (所属語彙数の少 ない) 型が新 たに 出現 し た 結果生 じ た体系 と 考 え る こ と は で き な い。 数は少 ない と はい え, 池間方言のA型の語 彙のほ と ん どす べ て はA系列 の語彙 と 対応 す る から であ る。 紙面の都合上詳述す る こ と はで き な いが, 池間方言は, 宮古語多良間方言 と だけ でな く, 琉球語諸方言 と の間に も ア ク セ ン ト の規則的 な対応があ る。  ただ し 池間方言では, 琉球祖語に 仮定 さ れるA系列の語の大半が, B系列の語 と 同 じ ア ク セ ン ト 型に属す る。 類別語彙 (金田一 

1974) と の対応に関し ていえば, 古 く は服部四郎

(1958) , 近年 では松森晶子 (2000a, b) によ っ て 指摘 さ れてき た, 琉球諸語 と 日本語 と の間の ア ク セ ン ト の特徴的 な対応が, 池間方言に も同様に観 察 さ れる。 他の琉球語諸語お よ び日本語 と の間の ア ク セ ン ト の対応 を最 も う ま く 説明す る仮説は, 池間方言は (琉球祖語におけ る ア ク セ ン ト 型の区 別 を比較的忠実に保持 し た) 三型体系から二型体 系 に な る言語変化の過程の最終段階にあ る と す る

も ので あ ろ う 。  こ のこ と は稿 を改め て論 じ る。

本論は, 南琉球 グルー プで三型 ア ク セ ン ト 体系 を持つ方言 を新たに発見 し た と い う 点で記述的意 義 を持つ。  ま た本論は, 池間方言が ア ク セ ン ト の 実現に関 し て類型論的に見て珍 し い特徴 を持つこ と を示 し たが, こ の点におい て本論は世界の言語 の音調研究一般に何 ら かの示唆 を与え る も のと い え る。

本論はま た, あ る言語 ・ 方言の ア ク セ ン ト 体系 を記述す る際に, 単独 で発話 さ れた語ま たは助詞 を付け て発話 さ れた語 を分析す る だけ では, 誤 っ た結論 を導 く 可能性があ る こ と を示 し てい る。 単 独形 ・ 助詞付 き形で ア ク セ ン ト 型の区別の一部が 中和す る言語 ・ 方言には, 例え ば与那国語 (上野

2010) な どがあ り, 決 し て池間方言に限ら れる こ

と ではない。 少な く と も, 単独形 ・ 助詞付 き形こ そが ア ク セ ン ト 型の基本形で あ り, こ の基本形が 文中で様々に弱化す るこ と で, 種々の実現形が得 ら れる と す る枠組 み (郡2003) は, 適用 で き な

い言語 ・方言があ る。 妥当 な記述のためには,様々 な キ ャ リ ア文 を用 い, 文中 におけ る語 の ア ク セ ン ト の実現形 を で き る だけ詳細に分析す る必要があ る。  そ れを行 わず に, 何が ア ク セ ン ト 型の基本形 な のか を先験的 に 決定す る こ と は不 可 能で あ る し, 単独形 ・ 助詞付 き形の分析のみに基づい て ア ク セ ン ト の対立数 を確定す る こ と さ え不可能であ る こ と があ る。  ア ク セ ン ト 型の区別の一部が多 く の環境で中和 し て し ま う 宮古語池間方言は, こ の こ と を端的に示す好例で あ る。

本論 と 同様 に, 文中 に おけ る語 の ア ク セ ン ト の 実現形 を分析す る こ と によ り, 従来の記述の誤 り が修正 さ れた例は, た と えば日本語村上方言 (新 潟 県) の研 究 に 見 つ け る こ と が で き る (上 野

1984b)。 こ の研究では, アク セ ン ト 型の区別が不

明瞭な 「 曖昧 ア ク セ ン ト 」 で あ る と 従来みな さ れ てき た体系 が, 型の区別が明瞭な多 型 ア ク セ ン ト 体系 で あ る こ と が明 ら かに さ れた。  も し 琉球諸語 のア ク セ ン ト 体系 の分析が, 単独形 ・ 助詞付 き形 の分析のみに基づい て こ れま で行 われて き たので あ れば, 文中 におけ る語の ア ク セ ン ト の様々な実 現形 を分析す る こ と は, こ れか ら の琉球諸語 ア ク セ ン ト 研究に と っ て有望 な ア プロ ーチ のひと つ と な る だ ろ う 。 そ う す る こ と に よ っ て, こ れま で二 型体系 あ るいは一型体系 を持つ と 記述 さ れてき た 琉球語諸方言に, 三型体系 を持つ も のを新 たに見 つけ る こ と があ る か も し れない。

最後に今後の課題につい て述べよ う 。  ひと つ目 の課題は, 動詞 ・ 形容詞の ア ク セ ン ト の調査があ げ ら れる。 現在ま で の調査 で われわれは, 動詞に

は2 種類の区別があ る こ と を確認 し てい る (例え

ばnil 「煮 る」 対mil「見 る」)。 一方, 形容詞には 名詞 と 同様に3 種類の区別があ る こ と が分かっ て い る (例え ばaka「赤い」 対naga「長い」 対taya「 強 い」)。 特定のア ク セ ン ト 型 (taya「 強い」 が属す る型) に属す る語彙数が極端 に少ないの も名詞 と 同様 で あ る。 さ ら には, 3種類の ア ク セ ン ト 型 の 区 別 が完全 に 実現 さ れ る のが, 形 容詞語 幹 に2

モ ー ラ の要素がふたつ後続 し た環境 (例え ばaka- munu-hazi. 「赤い だ ろ う 。」) であ る と こ ろ も 名詞

(13)

特集  「N型 ア ク セ ン ト 研究の現在_

と 同様であ る。  ア ク セ ン ト に関 し て池間方言の形 容詞が名詞 と 類似 し たふ る ま い を見せ る現象 は, こ の方言におけ る形容詞 と 名詞の形態統語論上の 類似性 と 関連付け て分析す る必要があ る だ ろ う 。

も う ひと つの, そ し て最 も重要 な課題は, ア ク セ ン ト の実現規則 を明 ら かにす る こ と で あ る。 本 論は池間方言のア ク セ ン ト 体系が三型であ る こ と を示 し たが, こ の方言の ア ク セ ン ト が どのよ う な 規則や原理 に し たが っ て実現 さ れてい る のかはほ と ん ど不明のま ま であ る。  こ の課題に取 り 組むた めには, 分析対象 を4 モ ーラ以上の名詞にま で広 げ, さ ら に多 様 な環境 におけ る語の ア ク セ ン ト の 実現形 を調査す る必要があ る。 第2 節の終 わり に 触 れた よ う に, 「 名詞+ 2 モ ー ラ 助 詞+ 述語+発 話末」  と い う 環境以外 に, 3 種類の ア ク セ ン ト 型 の区別 が完全 に実現 さ れる 環境 があ る はず で あ り, そのよ う な環境 を見つけ出 し一般化す るこ と が, ア ク セ ン ト の実現規則 を明 ら かにす る一助 に な る だ ろ う 。 今後の調査の結果に よ っ て, 池間方 言の ア ク セ ン ト 型の実現は, 実はは る かに単純 な 原理に支配 さ れてい たこ と が明 ら かに な る可能性 は十分 に あ る。

ア ク セ ン ト 型が実現 さ れる領域は何 なのか, 音 調 を担 う 単位 (tone bearing unit) は何 な のかな ど の問 い に対 し て, われわ れは ま だ明確 な答 え を 持 つてい ない。 いず れにせ よ, 下地理則が, 宮古 語伊良部長浜方言の一型 ア ク セ ン ト 体系 に提案す る2 モ ーラ フ ッ ト が (Shimoji 2009) , 池間方言に おい て も重要な役割 を演 じ てい るのはほぼ間違い ない。 伊良部長浜方言には高 ピ ッ チ と 低 ピ ッ チが フ ッ ト ご と に交替す る現象 (下地理則がHL alter-

nationと 呼 ぶ リ ズ ム現象) が観察 さ れるが, 池間

方言 に も こ れに類似 し た リ ズ ム現象 があ るのか も し れない。 ま た, 池間方言におい て, 名詞にい く つかの語が後続す る と き に, 名詞の ア ク セ ン ト 型 の実現形が変化 し てい く 現象は, 中国語諸方言な ど に 観察 さ れ るtone sandhi (Chen 2000) を 想 起 さ せ る。 実際, 三型 ア ク セ ン ト 体系 を持つ日本語 隠岐島中村方言 (島根県) にはtone sandhi と 呼 んでま っ た く 差 し 支え ない ア ク セ ン ト 型の交替現

象が観察 さ れる (上野1989)。 池間方言のア ク セ ン ト 体系 も こ れに類似 し てい る可能性 も ある'3)

本論の課題そ し て将来の課題のいずれも, 文中 におけ る語の様々な実現形 を分析す る手法 を適用 し て初めて取 り 組むこ と がで き る も ので あ る。 琉 球語諸方言 ・ 日本語諸方言のア ク セ ン ト 研究では あま り 用い ら れない こ の手法は, 1980年代から 欧米 を 中心 と し て飛 躍的 な発展 を 遂 げ た イ ン ト ネ ーシ ョ ン研究(Ladd 1996) では主流の手法であ るが, 実は一部の研究者によ っ て日本語標準変種 (川上1957) や諸方言 (上野1984b) のア ク セ ン ト 研究に古 く か ら用い ら れて き た手法で も あ る。 

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〔注〕

1) 平山ほか (1967) によ る と, こ の方言には3 種類 の ア ク セ ン ト 型 (仮に α型, β型, γ型 と 呼 ぶ) 区別があ る。 し か し 通時的に見 る と, l3型 とγ型の 区別は, 琉球祖語 に再建 さ れる ア ク セ ン ト 型 に よ っ て区別 さ れる語類 (A系列, B系列, C系列 (松森

2000b) ) のB系列 とC系列が, 一定の音韻論的条

件下で分裂 ・ 合流 し た結果生 じ た も のであ る。  し た が っ て, こ の方言の3 型体系は琉球祖語に仮定 さ れ る ア ク セ ン ト 型 の区別 を保持 し た も ので はない。

2) 長い語の一部は複合語であ る こ と に起因す る方法 論上の問題点から こ のよ う な限定 を行 っ た。 複合語 には単純語 と は異な り, 生産的 な ア ク セ ン ト 規則が 適用 さ れる こ と が知 ら れてい るが, こ の方言の複合 語 ア ク セ ン ト 規則はほ と ん ど全 く わか っ てい ない う え に, あ る語が複合語なのか単純語なのか を判断す る方法論 を われわれは現時点では持 ち合 わせてい な い。  し たが っ て観察 さ れる音調が, 単純語のア ク セ ン ト 型 なのか複合語 ア ク セ ン ト 規則 の適用 さ れた結 果な のか を判断す る こ と がで き ない。  こ の問題は, 単一の形態素から形成 さ れる こ と が自明であ る名詞 のみを分析対象 にす る こ と に よ り 回避で き る と 思わ れるが, 池間方言 のA型 の語の数は他の型 の語 と 比較 し て圧倒的に少 ない た め (第3 節参照) , 一般 化がで き る ほ どの十分な数のそ のよ う な名詞 を, べての型につい て見つけ だすこ と が現時点では不可 能で あ る。 いず れにせ よ4 モ ーラ 以上の語に3 種類 を超 え る ア ク セ ン ト の対 立 は確 認 さ れてい な い 。

3) 日本語の1 モ ーラ 語に同源語が見つかる池間方言

の語彙語は, 長母音 を有す る2 モ ーラ 語であ る (例 え ば, baa「 葉」, naa「名」, tii「 手」)。 こ れら は本

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